《解説》 中指ばね指(示指、環指、小指も同様)


母指以外の指は、母指よりも構造が複雑で、バイオメカニクス理解するためには解剖学の知識が必要です。
ばね指の症状と解剖学を関連づけるために母指以外のばね指分類(湯本2014)を提唱します。

   【注】 この分類(図譜)は解剖学に忠実に基づいてはおらず、臨床症状を説明するための便宜的な分類です。

◇簡単な解剖学(中指)

腱鞘の命名法は二通りあり、またA1腱鞘とA2腱鞘の詳細な説明は次のページにあります。
詳しい手の構造についてはPernkopfの解剖図譜が参考になります。

 1) ネッター解剖図譜の場合
ネッター解剖図譜では腱鞘はA1~A5までの9つに命名されています。
この中で、腱の通過障害に関係するのはA1腱鞘A2腱鞘です。

腱鞘と関節の名称について
 A1~A5のA=Annular(輪状の)
 C1~C4のC=Cruciform(十字形の)
 DIP関節 D=Distal(遠位)、 IP=InterPhalangeal(指節間)
 PIP関節 P=Proximal(近位) 同
 MP関節 MP=Metacarpo-Phalangeal(中手指節間)

 2)Green手術書の場合
上の図譜と比較してC1~C3の位置が異なり、またC4はありません。
またA1腱鞘A2腱鞘の間隔も前図の場合より狭いですが、本文ではこの図を使用します。
   屈筋腱は2本です。
    ・ 浅指屈筋腱=途中で2本に分かれて中節骨に付着します。
    ・ 深指屈筋腱=浅指屈筋腱の分岐部を通り抜けてから、末節骨に付着します。



◇腱の3カ所の結節について(湯本2014)

母指以外のばね指は、3カ所の結節の通過障害を基準に分類できます。。
【注】この分類は今後変わる可能性もあります。

○浅指屈筋腱の結節
1.結節D=真性結節、最初に出来る結節でA1とA2の間に出現する。
2.結節P=二次結節、結節Dよりも遅れてA1の反対側に出現する。

○深指屈筋腱の結節
3.結節Pf=結節Dと相前後して出現する。

※ 結節Pの発生機序は、浮腫で太くなった浅指屈筋腱がA1腱鞘に締めつけられことが原因と考えられる。
 D=Distal(遠位の意味)
 P=Proximal(近位の意味)
 Pf=Profundus(深指屈筋腱の意味)
中指ばね指の結節Tについて(示指・環指・小指も同様)

 ◇ 中指の屈筋腱は2本で、浅指屈筋腱と深指屈筋腱が隣り合って走行しています。
 ◇ 浅指屈筋腱には結節Dが出現し、さらに結節Pが観察される場合もあります。
 ◇ これら2つの結節は母指と同様の障害をもたらすので、同じ名称としました。
 ◇ 深指屈筋腱で観察される結節Tを以下の映像で供覧します。
    上図の「結節Pf」は結節Tと同じもので、両者ともを筆者が命名しました。
    【注】2015年11月20日実施 #1982の術中エコーから命名しました。(湯本)
 ◇ 結節Tの映像により、ばね指の理解がさらに深まります
環指ばね指、右(#1982)
環指ばね指、右(#2195)
中指ばね指、右(#2193)
中指ばね指、左(#2072)
二段のロッキング、D結節とT結節のエコー映像
ボーリング、同僚が「手術は受けるな!」と忠告?
ロッキングの整復操作で深指屈筋腱の結節Tを観察
指曲げで深指屈筋腱(結節T)→結節Dの順に弾発


◇ ばね指の型分類 ーPIPの屈曲拘縮と通過障害ー

PIP関節が曲がったまま平らに伸びない状態をPIPの屈曲拘縮と呼びb型とc型が該当します。
私は臨床経験から、拘縮の大半はb型でありc型は稀であると考えています。
ばね指手術をした後でc型ばね指と判明し、後日改めてA2腱鞘切開をした症例#1543もあります。

a型ばね指

結節D、結節Pfによるばね指。

1) 結節Dと結節Pfは共にA2を通れる(引っかからない)のでPIPは平らに伸びる。

2) 結節Dと結節PfがA1を通り抜ける時に弾発やロッキングが出現する。

b型ばね指

結節D、Pおよび結節Pfによるばね指。

1) 結節PがA1の近位入口部を通れず、PIPは平らに伸びない。

2) 結節DがA1を通れない場合は指が深く曲がらず、見かけ上は弾発やロッキングは起こらないが、局所麻酔をすると初めて症状が出現する。

c型ばね指

結節Dによるばね指。

1) 結節DがA2腱鞘の近位入口部を通れず、PIPは平らに伸びない。

2) 結節DがA1を通過する際に弾発やロッキングが出現する。

3) 結節P、結節Pfが合併することもあり得る。


◇ ロッキングの模式図


指の側面図の四角の範囲を下の模式図で示します。


A)結節Pfは結節Dと離れています。

B)結節Pfと結節Dが相対的に近づきます。

C)結節PfはA1腱鞘の途中まできましたが、結節Dは中に通れません。
この時、反対の手で補助しながら指を深く曲げると、両方の結節がA1を通り抜けます。
両方の結節が少し離れていれば、ぎりぎりの状態でA1腱鞘を通れます。

D)最大に曲がった後、指を伸ばすると両方の結節が同時にA1腱鞘に入ろうとするためにロッキングとなります。


◇ 結節の動きとロッキング

結節D=浅指屈筋腱、結節Pf=深指屈筋腱です。
☆ 結節Dの動きを1)~3)の順に説明します。
 1)A1腱鞘とA2腱鞘の中間に位置しています。
 2)A1腱鞘に入り、太さに余裕が少しでも余裕があればぎりぎりで腱鞘内を進むことができます。
 3)A1腱鞘を通り抜けたところで、後ろから来た結節Pfに追いつかれました。

☆ 結節Pfの動きを1)~3)の順に説明します。
 1)A2腱鞘内にあります。
 2)A2腱鞘をちょうど抜けたところです。
 3)A1腱鞘内を結節Dの少し後から進み、A1腱鞘を出たところで追いつきます。

結節Pf結節Dは別々であればA1をぎりぎり通れる太さですが、指を伸ばすときはA1腱鞘近位入口部に同時に入ろうとしてロッキングが起こります。


◇ ロッキングの映像

 1 症例1、右中指 → ロッキングの整復操作
梱包でロープを強く握って発症した。
10年以上前に一度ロッキングとなったが、それ以降はロッキングするほど深く曲げない生活をしていた。
日常生活ではロッキングが出現しないので手術予定はない。
75才男性。
 2 症例2、左環指 → ロッキングの整復操作
1年前に発症し、手術希望で来院した際の映像。36才男性。
 3 症例2の手術 左環指(#1436 再掲、ビデオ図書室)
年末を利用して手術施行。術後8日目の映像あり。
 4 症例2と同人 ロッキングを伴う左中指(#852 再掲、ビデオ図書室)
既に、3年前に当院で手術を行っている。
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