手外筋と手内筋

(医療機関向け)
 ばね指は手外筋である浅指屈筋と深指屈筋が原因で発症します。
 また手内筋はばね指と直接の関係ははありませんが、手の機能を深く理解するために必要です。
 本文は示指、中指、環指および小指のばね指に関する説明です。
 

◇ 手内筋の種類(Intrinsic muscles)

 手内筋は手のひらに起始を持つ手の固有筋で、2群に分けられます。
   1群 骨間筋、 掌側~、背側~の2種類あり機能の違いはわずかです。
   2群 虫様筋

◇ 手内筋の4つの機能

1) 指を閉じる → 3つの掌側骨間筋は示指、環指および小指を中指側へ寄せます。

2) 指を広げる → 4つの背側骨間筋は中指を安定させ、また示指と環指を外へ広げます。
3) MPを曲げる
4) PIPとDIPを伸ばす


【上】 指の側面
・ 掌側骨間筋と虫様筋MPを屈曲します。
・ 総指伸筋MPを伸展します。
【下】 指の背面
・ 総指伸筋(腱)は指背腱鞘膜となり指先に伸びてゆきます。
・ 指背腱膜に骨間筋と虫様筋の腱膜が合流します。
・ 掌側骨間筋の大半は中節骨(赤)に停止し、主な機能はPIPの伸展でDIPの伸展機能はわずかです。
・ 虫様筋の大半は末節骨(緑)に停止し、主な機能はDIPの伸展で、PIPの伸展機能はわずかです。
 手内筋の特徴(まとめ)
○ 総指伸筋腱(水色)はMP関節包と癒着しており、MP関節を伸展します。また指背腱膜となって指先に至りますが、手内筋が作用しなければ独力でDIPやPIPを伸展する機能はありません。
○ PIPの屈曲機能は骨間筋が強く、虫様筋は弱くなります。
○ 浅指屈筋と骨間筋が同時に収縮するとPIPが固くなり、他動的に屈げ伸ばしできなくなります。
○ 虫様筋は深指屈筋腱の側面に付着(起始)しており、両筋は協力してDIPの動きを制御します。
   両筋が強力に収縮するとDIPが固くなり、他動的に屈べ伸ばしできなくなります。

◇ 手外筋(Extrinsic muscles)
  手外筋は前腕に起始がある外来筋で浅指屈筋と深指屈筋の2本あります。
  これらはPIPとDIPを曲げますが手内筋のようなMPを曲げる機能はありません
  ばね指はこれら2つの腱に結節ができて太くなりA1腱鞘内で通過障害を起こした状態です。
  一般的にA1以外の腱鞘では通過障害は起こりません。

◇ 機能一覧表
  上で述べた機能を一覧表にしてみました。
  PIPおよびDIPの屈曲と伸展には、それぞれ1つの筋が対応しています。
  Landsmeer靱帯*1がPIPとDIPの動きを調整しており、完全に独立した動きはできません。
手外筋 手内筋
種類 浅指屈筋 深指屈筋 骨間筋(背側、掌側) 虫様筋
起始 前腕 前腕 中手骨 深指屈筋腱
停止  中節骨  末節骨  主に中節骨 
(指背腱膜)
主に末節骨
(指背腱膜)
MP 屈曲 *2
伸展
PIP 屈曲
伸展
DIP 屈曲
伸展 *3
_____________
【参考】
*1Landsmeer靱帯の機能を簡単に調べる方法があります。
 ・ MPを伸ばしたま指の曲げ伸ばしをして、DIPとPIPの角度計測を目測でしてみて下さい。
 ・ DIPを曲げるとPIPも一定の割合で曲がり、両方をばらばらに曲げることはできません。
 ・ DIPの動きにPIPが追随するのはLandsmeer靱帯が両関節の角度を制御するからです。
 ・ Landsmeer靱帯のおかげでDIPとPIPは協調的に働きます。
 ・ ピアノ、ギターなど早い指の動きでもDIPとPIPを意識せずに済むのはその為です。
 ・ この機能は能動的腱固定 Dynamic tenodesis(英) と呼ばれます。

*2筋電図による Backhouse と Catton の研究(1954) および Long と Brown の追試研究(1962)により虫様筋にはMP屈曲作用は無いされましたが、その後、Ranney とWells の研究(1986) などにより弱いけれどもMP屈曲作用があると変更されました。 Surgical Anatomy of the Hand(Thieme), 2003

*3DIPを伸展するのは虫様筋であり、骨間筋は作用しないことを環指で調べることができます。
示指、中指および小指を他動的に伸ばした状態(MPの関節角度0°)で環指を深く曲げます。
 ・ 浅指屈筋と骨間筋が働いてMPとPIPを曲げている状態です。
 ・ 深指屈筋の筋腹は環指と中指とで共通で、環指と中指を個別に曲げる機能はありません。
 ・ 環指の深指屈筋は収縮できないのでDIPは曲がりません(力が入りません)。
 ・ この状態で指を伸ばそうとすると骨間筋の作用でPIP伸びますがDIPは伸びません。
 ・ PIPが伸びるためには深指屈筋が機能し、また虫様筋も機能する必要があります。
 ・ つまり骨間筋にはDIPを伸展する機能は無いことが判ります。
 (注)手内筋の機能は解剖学書により少しずつ異なり、上は私見が含まれます。

◇ 鉄棒ぶら下がりにおける手外筋と手内筋の作用(示指)

鉄棒のぶら下がりにおいて、力強く握る手の形を私は手内筋作用指位 Intrinsic active と名付けました。
一般的なイントリンシック・プラス指位または手内筋指位 Intrinsic plus と少し違うので注意が必要です。
手外筋指位 (イントリンシック・マイナス) 手内筋活動指位(イントリンシック・アクティブ)
手内筋を使わず手外筋だけの力でぶら下がりができます。 力強く握るために手外筋に加えて手内筋をはたらかせてMPを曲げています。
手外筋は持久力があり長時間ぶら下がれます。 手内筋は持久力がなく長くはぶら下がれません。
MPが平らでA1腱鞘と屈筋腱は摩擦をおこしません。単純なぶら下がり運動では「ばね指」は発症しません。 MPを曲げて力を入れるとA1腱鞘と屈筋腱の間に摩擦が発生します。この状態で指を曲げ伸ばしすると「ばね指」発症の原因となります。

◇ イントリンシック・プラス指位とマイナス指位

イントリンシック・プラス指位 イントリンシック・マイナス指位
手内筋が強力に作用すると、この指位をとることができます。。 手内筋が麻痺すると、PIPとDIPはどちらも伸ばすことができません。

◇ ばね指の発症原因
ばね指はMPを曲げながら手を使うことにより、手外筋の腱が太くなって発症します。
逆にMPを曲げなければ、手をいくら使ってもばね指は発症しません。

卑近な例ですが、樹上生活をしている動物(チンパンジーなど)が終日ぶら下がり運動をしても、MP関節が伸びているのでばね指には罹患しないと考えられます。

ばね指は霊長類でもヒト特有の疾病と考えてよさそうです..。
手内筋の中でも特に母指球筋の進化がヒト特有の機能をもたらしました。

○ヒトの手は手内筋と手外筋の機能を組み合わせることで、精密な指の動きを獲得しました。

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