手術による神経損傷

(医療機関向け)
 各指に2本づつ、合計10本の指神経が神経がA1腱鞘の両側を平行に走行しています。
 ばね指手術の合併症の1つに神経損傷が知られています。

◇ ばね指手術での神経損傷

 ばね指手術の際にA1腱鞘の隣りを併走する神経を損傷すると、術後から指先にしびれが出現します。
 これは医原性末梢神経損傷と呼ばれ日本語論文1*や英語論文2*の発表もあります。
 神経損傷を未然に防ぐには解剖学の知識が必要であり、立体画法で神経、動脈が描かれたSpalteholz解剖図譜が参考になります。
 こちらのSpalteholz解剖図譜は主に神経が描かれています。

◇ 手のひらの神経分布

○ 各指には2本づつ指神経が分布し、そのうち7本は正中神経から、残り3本は尺骨神経から分岐しています。

○ 指神経は必ずA1腱鞘の両側を併走し、母指の場合でも指神経がA1腱鞘を横切ることはありません

○ 黄色の区間は、特に注射針の経皮的ばね指手術で損傷しやすい箇所と考えられています。

○ これらの部位で母指と示指の神経が損傷した場合にしびれの出現する領域を斜線で示します。

○ 他の指の神経損傷でも同様のしびれ領域が出現します。
 

母指以外の「2mm切開ばね指手術」


○ 手術では、ガイド・ナイフをA1腱鞘の遠位入口部に挿入して中枢へ向けて1回のストロークで切開します。

○ この時のガイド部の動きに着目してみます。

黒丸はガイド・ナイフの挿入部位を示します。またA1腱鞘はトンネルに喩えることができます。

ガイド部はトンネルの中を皮膚に一番近い部位(腱鞘の真ん中)を移動するので刃が横に逸れて神経を損傷することはありません。

○ 2mm切開ばね指手術は非常に安全性の高い手術である所以です。

◇ 母指における「2mm切開ばね指手術」

○ 母指の場合もA1腱鞘の遠位入口部にガイド・ナイフを挿入して中枢に向けて1回のストロークにより切開します。

○ 一方注射針による経皮的ばね指手術ではA1腱鞘を切開するために手探りのストロークを数十回行います。この操作に際して神経損傷が多発することが知られるようになり、現在ではほとんど行われなくなりました。

 ◇ 母指の指神経の触診

○ 母指の指神経を注意深く触診すると、黄色の範囲を皮膚の表面から触れることができます。術式に関わらずばね指手術の前に神経走行を確認しておくことが重要です。

○ 注射針の経皮的ばね指手術で神経損傷が起こる原因は、神経がA1腱鞘を横切るからではありません
手術の際に注射針が神経を横切るからです。
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【文献】浅井宣樹:バネ指手術に合併した医原性末梢神経麻痺、日手会誌 .26:391-394, 2010
文献ダウンロードRyzewicz:Trigger Digits: Principles, Management, and complications. J.Hand Surg, 31A: 135-146, 2006

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